以前紹介した『なぜ銅の剣までしか売らないんですか?』の著者と同じエフさんの作品になります。今回作品紹介するうえで多少のネタバレを含みますのでご了承下さい。格差社会をメインとしたお話になりますが、私のような中年層にはまるのはもちろんですが、のびしろの多い20代30代の方にも読んでもらいたい作品ですね。
作品情報
書 名:金融義賊
発行日:2023年6月15日 初版第1刷発行
著 者:エフ
発行所:株式会社 実業之日本社
定 価:税別1,700円
ISBN:978-4-408-53833-4
作品概要
証券会社に勤める男を主人公においた格差社会をメインとしたお話になります。これだけ聞くと小難しいイメージですがそんなことはまったくなく、特に難しい専門用語が出てきたりするわけではないため退屈することなく読み進められると思います。
本人曰く下層出身の主人公『義田』は大学生活にて格差社会を実感し、今の社会を覆したいと考え計画します。ストーリーは、おそらく著者のエフさんの実体験を含めた証券会社のリアルな描写や現実に起きた事件を混ぜながら進んでいきます。主人公『義田』は日々証券会社の仕事をこなしながら計画成功へとむけて着実に準備を進めていきます。そこにはいろいろな資産家達が登場します。美術品を見せびらかす老人、夫の稼ぎが良く専業主婦で子育て熱心な婦人、大手スーパーを経営し勲章歴もある老人等モデルとなる人がいるとは思うのですが、登場人物の描写すべてが生々しく実在の人物ような感じがします。
そしてエフさんの作品にみられる特徴のひとつですが、今回も名前でその人物の立場をわかりやすくしてあります。例えば、会社の後輩なら下柳、金持ちなら金井、等名前になんらかの意味を持たせているのです。このおかげで登場人物を覚えやすくなっていると思います。
義田は過去を振り返ったときに、母子家庭の田舎育ちですが進路に関しては親にとってベストな進路先は高校卒業後公務員になるこで、親や先生はあてにはならなかったと言っています。このことに関して私もすごく共感できると思いました。私自身望んでの高卒ですから学歴はいいのですけど、就職先に関して言えば親も進路指導の先生も役にはたたなかったです。そりゃあ大学を卒業して教員になった進路指導の先生が『個人個人に合わせた民間企業メインの就職先のアドバイス』なんて出来るわけないですよね。製造、営業、販売どれもしたことないのですから。
ここから先はほんの少しだけネタバレをしますので読みたくない方は飛ばしてください。
最初は感情移入出来た主人公ですが途中から感情移入できなくなります。税金対策とはいえ慈善事業を行っている資産家や、資産家の一族だが軽度の知的障害のためニートの男など富裕層というだけで悪とする主人公についていけなくなっていきました。そして最後に同じ思想で動いていたと思っていた半グレグループからあなたは恵まれた人間であり我々とは違うと言われてしまいます。難関大学に独学で現役合格した主人公は天性の才能の持ち主と思われたのです。たしかに半グレグループのメンバーはリーダーの四井の吃音を始め先天的な障害により社会生活が困難な者たちばかりですから、中退とはいえ塾や家庭教師のような支えもなく自力で難関大学に入学し、証券会社でもバリバリ成績を上げている主人公とは同類と思えないのもうなずけます。
義田自身は人並み以上の努力をした結果だというのですが、やはり納得されませんでした。ここらへんは永遠のテーマなのかなと私は思います。秀でるものと劣るものの差は努力の差によるものなのか?それとも才能の差なのか?成功出来ない者は努力が足りないだけなのか?それとも才能が足りないのか?単純にyes、NOで語れる話ではないと思います。
義田は下側の人間と思っていたのに視点を変えれば恵まれた環境だったのです。そしてそれは自分だけではなく、駄菓子屋の老婆やコンビニで働く老夫婦、視点を変えればまったく違うように見えるようになりました。
そして最後に主人公の計画はうまくいくのか?最終章の怒涛の展開は一気に読んでしまうことうけあいです。
まとめ
最初と最後で主人公を見る目が全然違ったものになると思います。途中主人公が嫌いになり読むのをやめようかと思うほどでしたが結末が気になり最後まで読んでしまいました。どこからが長編小説となるかはわかりませんが、本書は269ページで以外に早く読み終われると思います。
エフさんの新作を期待しつつ終わりたいと思います。
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